「広告のクリック率は悪くないのに、LPでの購入率が伸びない」「商品のスペックはきちんと書いているのに、なぜか刺さらない」——EC広告・LP制作でよくあるこの悩みの背景には、「何を(What)」だけを伝え、「なぜ(Why)」を伝えられていないという共通点があります。マーケティング理論家サイモン・シネック氏が提唱した「ゴールデンサークル理論」は、この「なぜ」から語ることの重要性を説く、広告・LPコピーライティングにも応用できる考え方です。
この記事では、ゴールデンサークル理論の基本的な考え方から、EC広告・LPコピーライティングへの具体的な応用方法、実践ステップ、よくある失敗までを解説します。スペック訴求から一歩進んだ、記憶に残り、行動を促すコピーの作り方を身につけたい方に役立つ内容です。
結論として、ゴールデンサークル理論をEC広告・LPに応用する要点は、「Why(なぜこの商品を作ったのか)→How(どうやって実現しているか)→What(何を提供しているか)」の順番でメッセージを組み立てることです。多くの広告・LPが逆の順番(Whatから始めてWhyに触れない)になっており、そこに改善の余地があります。
ゴールデンサークル理論とは何か
ゴールデンサークル理論は、マーケティング理論家のサイモン・シネック氏が2009年のTEDトークで発表した考え方で、優れたリーダーや企業に共通する「伝え方の構造」を、3つの同心円(Why・How・What)で表したものです。
- What(何を):その企業・商品が「何を」提供しているか。ほとんどの企業・広告が最初に語る部分
- How(どうやって):それを「どうやって」実現しているか。技術、製法、こだわりなど
- Why(なぜ):「なぜ」それをしているのか。存在意義、信念、目的
多くの企業・広告は、外側の輪である「What」から説明を始めます。しかし人の意思決定に強く影響するのは、実は最も内側にある「Why」だとシネック氏は説きます。「何を売っているか」ではなく「なぜそれを売っているか」に触れることで、単なる商品説明を超えた、感情的な共感を呼び起こせるという考え方です。
なぜ「Why」から始めることが購買行動に影響するのか
シネック氏は、人の意思決定において、外側の「What」を処理する脳の部位(大脳新皮質)は論理的思考を司る一方、内側の「Why」を処理する部位(大脳辺縁系)は感情や意思決定そのものを司ると説明しています。スペックの比較だけでは「なるほど」で終わってしまう一方、「なぜ」に共感すると、行動(購入)につながりやすいというわけです。
この考え方をEC広告・LPに当てはめると、「高性能」「高品質」「低価格」といったスペック訴求(What)だけを並べたコピーでは、他社との比較材料としては機能しても、「この商品を選ぶ理由」という感情的な結びつきまでは作りにくいということになります。
EC広告・LPコピーライティングへの応用方法
Why:なぜこの商品を作ったのかを最初に語る
LPのファーストビューやリード文で、商品開発の背景にある課題意識や想いを語ります。「自分自身がこの悩みを抱えていた」「既存の商品に満足できなかった」など、具体的な原体験があると、より説得力が増します。
How:どうやって実現しているかで独自性を示す
Whyで共感を得た後、それをどのように実現しているか(素材選定、製法、検証プロセスなど)を伝えます。ここが、競合他社との違いを裏付ける根拠になります。
What:最後に商品の具体的な特徴・スペックを伝える
Why・Howで築いた共感・信頼の上で、最後に商品の具体的な機能・スペック・価格を提示します。同じスペック情報でも、Why・Howを経た後に読むのと、いきなり提示されるのとでは、受け手の納得感が大きく異なります。
広告クリエイティブへの応用
LPだけでなく、広告のクリエイティブ(バナー、動画、SNS投稿)にもこの考え方は応用できます。特に短尺の広告では、限られた時間・文字数の中で「なぜ」を端的に伝えるキャッチコピーが、スクロールを止める力を持ちます。「〇〇%OFF」「新発売」といったWhat訴求の広告が並ぶ中で、「なぜ」を感じさせる一言は、視認性の面でも差別化要因になります。
広告文の構成例
「〇〇に悩んでいたから、この商品を作った」(Why)→「だから〇〇という工夫をしている」(How)→「その結果がこの商品です」(What)という順番で短い広告文を組み立てることで、限られた文字数の中でもゴールデンサークル理論の構造を反映できます。
広く知られている活用例
ゴールデンサークル理論の代表的な事例として、Apple社のコミュニケーションがよく引用されます。同社の広告やプレゼンテーションでは、製品の機能(What)を並べる前に、「既存の常識に挑戦する」という企業としての信念(Why)を語ることが多く見られます。機能訴求から入るのではなく、信念に共感してもらうことで、単なる製品購入を超えたブランドへの熱心な支持を獲得しているとされています。
小売・EC事業者においても、大企業のような規模でなくても、「なぜこの商品を扱っているのか」という創業者・担当者の想いを丁寧に語ることで、同様の効果を狙うことができます。
ゴールデンサークル理論を使ったコピー作成の実践ステップ
- 自社・商品の「Why」(なぜこれを作った・扱っているのか)を書き出す
- 「Why」を実現するための「How」(工夫・こだわり・技術)を整理する
- 「What」(具体的な機能・スペック・価格)を整理する
- Why→How→Whatの順番でLPの構成を組み立てる
- 広告用に、同じ構造を短く凝縮したキャッチコピーを作成する
- 実際の反応(CTR、CVR)を見ながら、Whyの伝え方を調整する
商材別に見る、Whyの見つけ方のヒント
| 商材 | Whyの見つけ方のヒント | LPでの表現例の方向性 |
|---|---|---|
| 食品・飲料 | 素材選びのこだわり、生産者との関係 | 「なぜこの産地・製法にこだわるのか」を物語る |
| アパレル・雑貨 | 作り手の想い、長く使ってほしい理由 | 「なぜこの素材・作り方を選んだのか」を語る |
| コスメ・ヘルスケア | 開発者自身の悩み、既存商品への課題意識 | 「なぜこの処方にたどり着いたのか」を語る |
| BtoB向け商材 | 顧客が抱える業務課題への問題意識 | 「なぜこの課題を解決したいのか」を語る |
Whyが見つからないと感じる場合は、商品そのものよりも「なぜこのビジネスを始めたのか」「なぜこの顧客層に向けて事業をしているのか」という、一段上の視点から掘り下げてみると、手がかりが見つかりやすくなります。
Whyを検証するための問いかけ
言語化したWhyが本当に機能するかどうかは、次の問いかけで検証できます。
- その理由は、自社ならではのものか(競合他社にも当てはまる汎用的な言葉になっていないか)
- 具体的なエピソードや原体験で裏付けられているか
- 実際の商品・サービスの中身と矛盾していないか
- 読んだ人が「なるほど」で終わらず、「気になる」「応援したい」と感じられるか
これらの問いに答えられないWhyは、抽象的すぎるか、実態が伴っていない可能性があります。書き出した後、一度時間を置いてから読み返し、第三者にも読んでもらうことで、精度を高められます。
ゴールデンサークル理論を使う際によくある失敗
- Whyが抽象的すぎて、他社との違いが感じられない(「お客様のために」等)
- WhyからWhatへの接続が弱く、結局何を売っているのか分かりにくい
- Whyを語りすぎて、購入判断に必要な情報(価格・仕様)が後回しになりすぎる
- Whyの内容が誇張されており、実際の商品・サービスと乖離している
特に注意したいのは、Whyを重視するあまり、購入に必要な実務的な情報(サイズ、価格、配送条件など)が疎かになることです。Whyは「選ぶ理由」を作るものであり、最終的な購入の意思決定には、Whatの情報もきちんと必要です。両者のバランスを意識してLPを構成することが重要です。
Why・How・Whatの整理シート例
| 要素 | 問いかけ | LPでの使い方 |
|---|---|---|
| Why | なぜこの商品を作った・扱っているのか | ファーストビュー、リード文 |
| How | その想いをどう実現しているか | こだわり・製法・検証プロセスの説明 |
| What | 具体的に何を提供しているか | 機能・スペック・価格・購入ボタン周辺 |
このシートを埋めることで、LPや広告文を書く前に、伝えるべき要素とその順番を整理できます。ライターやデザイナーに制作を依頼する際にも、このシートを共有することで、意図がぶれにくくなります。
よくある質問
すべての商品でWhyから始める必要がありますか
必須ではありませんが、価格や機能だけで比較されやすい商材ほど、Whyによる差別化の効果が大きくなる傾向があります。特にD2C・EC事業者にとっては有効な考え方です。
Whyが特に思いつかない商品の場合はどうすればよいですか
大きな社会的意義である必要はありません。「なぜこの仕入れ先を選んだのか」「なぜこの価格・品質にこだわっているのか」など、担当者の選定基準やこだわり自体がWhyになり得ます。
ゴールデンサークル理論とパーパスブランディングは同じですか
近い概念ですが、ゴールデンサークル理論は「伝え方の構造」に焦点を当てた理論であり、パーパスブランディングは「存在意義を軸にした経営・ブランド戦略全体」を指す、より広い概念です。両者は補完関係にあります。
広告文は短いのに、Why・How・Whatを全部入れられますか
短い広告文では全要素を詳細に書く必要はなく、Whyを一言で凝縮したキャッチコピーにし、詳細はLP側でHow・Whatを展開するという役割分担が現実的です。
効果はどうやって確認すればよいですか
広告のクリック率、LPの滞在時間、購入率(CVR)の変化に加えて、レビューやSNSでの言及内容に「共感」を示す言葉が増えているかどうかも、Whyが伝わっているかを確認する手がかりになります。
まとめ
ゴールデンサークル理論をEC広告・LP制作に応用する要点は、What(何を)だけを並べるのではなく、Why(なぜ)から始めてHow(どうやって)を経て、最後にWhat(何を)を伝えるという順番でメッセージを構成することです。スペック訴求だけでは生まれない、感情的な共感と行動につながるコピーを作る際の実践的な指針として活用してください。
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